『評伝 北一輝』清水元(日本経済評論社)

§1

■この理論の構築にあたって北がまず手に取った方法上の武器は19世紀後半の世界で最先端の科学として全盛を極めていた「進化論」である。(P12)

□「生存競争論」がベースとなっている

□「人類共同の意識」→道徳・社会正義がベース。相互扶助のようなもの

■北の思想・理論の基礎となっているもう1つの方法上の源泉は、ヘーゲルの歴史の弁証法であろう。(P.24)

□自ら目指す社会民主主義は、それまでの「社会主義」と「個人主義」とが止揚されたものと想定している。

ダーウィンクロポトキンヘーゲルと並んで、北の社会理論を形作っているもう1つの柱はマルクスにあることは、いうまでもない。(P28)

 

§2

■北によれば、個人は一個人として「利己心」ないしは「個人性」という意識をもつが、その一方で、社会を一個体として意識するうちに「公共心」や「社会性」と呼ばれる意識を同時に持つ。つまり利己心とともに公共心を、個人性とともに社会性を持つ動物が人間である。(P47)

マルクスの「類的存在」とほぼ同じ考え

■人は、自らの内を覗きこむ事で他者の振る舞いを了解しようとし、また一方においては他者を眺めるように自己を見つめる存在である という意味で、社会を内面化している動物である。(P52)

□社会と個人を等価値とする社会観。

 大乗仏教からくるのか?

■人間は、言語・道徳・慣行・ルールなど個人に先行する社会的関係性によって束ねられている。それが社会であり、人間が社会的存在であることの意味である。(P67)

 

■すでに述べたように、北の眼は意識的に、「交換」という、社会の本質を明かすようなものから背けられていた。それは彼が商業や流通を本来ならば経済において不必要な「浪費」とみなしていたからに他ならない。(P72)

□本家マルクスから大きく異なる部分。経済システムを考慮していない。

『世界リスク社会』U・ベック(法政大学出版局)

§1

■わたしは第1の近代と、第2の近代とを区別する作業を行ってきた。

 第1の近代ということばについては、社会関係・ネットワーク・コミュニケーションが基本的に領土内において行われるという意味として了解される。国民国家に基づく社会に基板とした近代について記述するものとして用いている。

 第1の近代に典型的にみられるような集団的な生活パターン、進歩とコントロールの可能性、完全雇用と自然の搾取は、今ではグローバリズム、個人化、ジェンダー革命、雇用の減少、グローバルなリスク(エコロジーの危機、グローバルな金融市場の衝突)という、相互に関連しあう5つの過程によって浸食されてしまっている。

 第2の近代の真の理論的、政治的な挑戦は、これらの挑戦すべてに対して、社会もまた、同時に応えていなければならないという点にある。(P2)

 

■グローバリゼーションは、国家構造、国家の自律性と権力の弱体化を意味する。このことが、逆説的な効果をもたらしていくのである。(P22)

□政治的にはナショナリズムが維持され、経済のみグローバル化されたのが2010年代の日本の状況である。

『歴史から理論を創造する方法』保城広至(勁草書房)

§1

■時間や場所に限定されない法則主義を、社会科学に適用する場合に生じるもう1つの問題点は、その法則なり理論が未来の社会そのものに影響を与える可能性を考慮に入れていない点にある。(P30-31)

□予言の自己否定性、自己実現性、理論の現象消失性が常に問題となって残ってしまう。

■(中範囲の理論の定義)

 ある時代や地域の範囲内において、繰り返し現れる(と考えられる)個々の現象を統一的に単純化・抽象化された形で説明でき、ある程度検証もされている、体系的知識。(P43)

□ここでは、地域限定を、1か国せいぜい2か国に絞ることを提案している。

 

§2

■科学的「説明」という概念は大きく分けて、以下の3つの意味に分類できると考える。

  1. それは因果関係の解明であるという意味(因果説)
  2. それは理論の統合という意味(統合説)
  3. それはある状態や性質の記述描写という意味(記述説) (P48)

□因果説の前提は「社会現象にはそれを生じせしめた原因がある」というもの。必ずしも歴史事象全てがこれにハマる訳ではなさそう。

□記述説はまさにアナール学派の歴史研究がそのものといえる。因果説とミックスした形(いわゆる解釈学)だと、文化人類学的なアプローチとなる。

 

§3

■(アブダクション)その推論の方法は、次のようなステップをとる。

  1. 我々の信念や習慣から逸れるような、変則的な事実が観察される。
  2. しかし、仮にある「仮説」が正しければ、その事実が生じるのは当然のことであろう
  3. 従って、その「仮説」が真と考えられるべき理由があるはずである。(P87-88)

§4

■もし自分の主張することに対して具体的な例を挙げて、その根拠とする論者がいれば、我々はその主張を常に疑ってかかるべきである。(P102)

■まず、ある社会現象が観察された際、なぜそれが生じたのかという一般的な問いをたて、その問いを固定化したまま、複数の事例でデータを集積して詳細に分析していく。(P111)

 

『テクニウム』ケヴィン・ケリー(みすず書房)

§4

□エクソトロピー(exotrophy)・・・エントロピーの逆転

  情報と等価ではないが、似ている。

  自己整合性(self-organization)を伴う

□情報とはなにか?定義できるか?

□価値の脱身体化 = 物なしの価値(抽象化・非物質化)

■哲学者マルティン・ハイデガーは、内なる現実を「開蔵」つまり露わにするものだと考えていた。その内なる現実とは、作られたモノすべてにある非物質的な性質だ。(P82)

 

§5

□テクニウムがもたらす歴史的な進歩(というより改良)=年1%くらいの大きさ

①一般人の長期にわたるパラメータの改良(寿命・教育・健康・富など)

②テクノロジー自体の前向きな進展

③①に起因する、選択肢の増加

④道徳=法律などの整備

⑤都市化の進展

■人間の進化に対するよくある誤解は、歴史的部族や有史以前のサピエンスの一族は、平等な正義・自由・権利をもち、調和を保ってきたが、その後それが減少した説だ。(P104)

□上の論の本質は「人間の性質は変わらない」というもの。

 実際は、順応性という単語の通り、人間は自分自身を書き換え(Overwrite)ていく。

■換言するなら、科学には、繁栄と人口は必要だ。(P108)

□逆はありえるか?「人口が減ると科学は停滞するのか?」

 

§6

□「収束進化」

 生物学における進化が再起的に発生する。

 個々の発展が相互に作用しながら進む。

■進化が必然的に再発へと向かうのは、以下の2つの力による。

  1. 幾何学と物理学の説明に規定される負の制約(これは生命の及ぶ範囲の可能性を制限する)
  2. 遺伝子結合と代謝経路における自己組織化する複雑性が生み出す正の制約(これは繰り返し新しい可能性を生み出す)(P129)

■生物学による人間の本性・地位・潜在能力に対する最も偉大な知見は、「偶発性の具現化」という単純な言語に集約できる。ホモサピエンスは、ある実体であり、傾向ではない。(P143)

□適応のベクトル

 ①環境の最適な適応(=ダーウィン進化論)

 ②運・偶発

 ③構造的な必然 ←自己組織化の影響

同様のことが、テクノロジーの進化(=テクニウム)についても検証・実証できるのか?§7に続く。

 

§7

■(この表を読めば)アイデアは抽象的な形で始まり、時間が経つとより具体的になっていくことがわかる。(P165)

□抽象的なアイデアの段階では、同時多発性が進む。

 決して科学/工学の世界だけではない。社会/文化もしかり。

■発明は文化的に決定される。この言い方に神秘的な含意を持たせてはいけない。(P176)

□→必要条件(従前の発明・技術)が揃った時に、新しいテクノロジーがスタートする、という事。

 

§9

■テクノロジーに関して「必然」を用いるときには2つの意味がある。

 第1の意味は、発明が一度は出現することになっている というものだ。

 第2の意味は、それが一般に受け入れられ生き残り、もっと実質的に「必然」といえるかどうか、という意味だ。(P201-202)

□後者の意味は重いと考える。そのテクノロジーが社会に浸透した後にふりかえった時に出てくる「必然」だから。

 

§10

■システムは人間の要求を満たすためには存在しないし、存在もできない。その代わりにシステムの要求に合わせて修正されるのは人間の行動の方なのだ。(P225)

■新しいものを選択肢として与えられて、それを受け入れるかどうか選べるとしても、それは必ずしもずっと選択可能というわけではない。

 多くの場合、新しいテクノロジーは、それを使うことを結局のところ強制するように社会を変えてしまうのだ。(P232-233)

□テクニウムの自己拡大性を意味する。

 

§11

アーミッシュの多様性の強化

 ・信仰の基盤は「世に居つつ、世のものではない」

 ・「何かを使うこと」と「何かを所有すること」を区別

  1. 彼らは選択的だ。拒否する方法を知っていて、新しい物を拒むことを恐れない。受け入れる以上に無視もする。
  2. 彼らは理論ではなく、経験を通じて新しい物を評価する。新し物好きに自由に使わせて、十分に観察する。
  3. 彼らは選択を行う場合の基準を持っている。テクノロジーは家族と共同体を強化し、外の世界と距離を置くものでなくてはならない。
  4. 選択は個人的なものではなく共同体的なものだ。共同体がテクノロジーの方向性を決めて、強化する。

■私は、このテクノロジーに関する2つのライフスタイル、すなわち「満足の最適化」と「選択の最適化」の違いは、人間が目指すものに関する考え方の違いだと考える。(P268)

ライプニッツ量子論)の再読必要!

 

§12

■リスク回避性向は、理性を失わさせる。(P285)

□結果として、全ての選択を捨ててしまう決定を下す可能性がある。

■要約するなら、新しいテクノロジーの持つ重大な二次的効果は、小規模で厳密な実験や、忠実なシミュレーションの中には存在せず、テクノロジーは実際に動かしてリアルタイムで評価しなければならない。(P290)

■新しいアイデアはまず試してみるのがよい。そしてそれが存在している間は、試し、試験し続けるのだ。(P290)

□「監視原則」>>「予防原則

■結局のところ、テクノロジー全体は、思考の一形態だ。(P303)

『理科系の文学誌』荒又宏(工作舎)

■言語の秘密をなぜSFは解こうとしないのか?そう自問しながらスタートしたこの文学誌にとって、今のところ最も刺激的な解答をポンポン投げ返してきてくれる日本人は、残念ながらSF作家でも言語学者でもない。1人は空海であり、もう1人は安藤昌益だからである。(P57)

□「統道真伝」安藤昌益(岩波文庫

 

■(もちろん)人を苛立たせずにおかないこうした哲学的疑問のひとつが、言語に対しても古くから投げかけられていうことは言うまでもない。それは、次のような問いである。

 言語は神のものなのか、獣のものなのか?(P58)

 

ライプニッツヴォルテールら古典的ユートピア言語派の時代には、東洋はまだ倫理と徳の国であり、漢字は聖文字であった。

 しかしチャペックの時代には、その神話すら吹き飛んでいる。(P79)

『影響力の心理』H・フェキセウス(大和書房)

§0

■本書は、次の2つの原則に基づいています。

 第1に、日々のコミュニケーションにおいて、相手の思考や行動に影響を与える方法をしっかりと理解する事。

 第2に、どのように影響するものであれ、影響力とは、他者に敬意を持ち、他者を自分と同じくらい大切に考えているときにこそ、より効果が上がると知っておくこと。(P3-4)

■本書でいう「影響力」とは、何かを利用するという事ではなく、慎重に検討し、よく配慮された行動をとるという意味です。(P5)

 

§1

■弱みを見せながら調書を説明すると、結果として弱みが気にならなくなり、正直で信頼のおける人だと感じさせることができる。(P35)

■まず最初に、相手がどのような性格か、どんな価値観や意見をもっているかを見極めよう。そして、自分の提案が、相手が大切にしている価値観と合っていると、説明するといい。(P49)

 

§2

■語彙の豊富な人は、クリエイティヴで知的とみなされ、就職や昇進もしやすく、たいていの場合、人より真面目に話を聞いてもらいやすい。(P66)

■相手を混乱させるには、「もしくは」という言葉が鍵になる。

 このテクニックのよいところは、実際には選択肢がないにもかかわらず、「相手に選択肢があると感じさせる」という点だ。

 実際には、このテクニックは、相手が自分の思惑通りに動いてくれる可能性がかなり低い場面でこそ役に立つ。(P83-85)

 

§3

■共感とは、他人の感情を推し量る能力のことだ。(P129)

■人に頼みごとをする際に最も大切なのはタイミングだ。(P146)

■プロの交渉人は、仕草をみて、相手がNoを口にする前の兆候を読み取る。こうしたサインに注意を払うことで「No」と言われる前に、会話を軌道修正することができる。(P171)

■一般的なネガティヴサインは次の通り。

①掻く

②両手で触る

③ペンをカチカチ鳴らす

④タップダンサーとレッグスインガー

電気椅子 (P172-173)

 

§4

■攻撃してきた相手を笑うのではない。それは相手をいじめ返すことになる。

 そうではなく、相手に「言われた内容」を笑い飛ばすのだ。(P184)

心理的に攻撃を受けている場合、相手の行動をただちに無効化する2つのよい方法がある。

 1つめの方法は、反論するのではなく、質問することだ。

 2つめの方法は、古くから伝わるジャーナリストのトリックである、「黙り込む」のだ。(P224-225)